「このマンションはリビングから富士山が見えるんですよ。しかも管理人さんだってとても良い人だし、新築時にオプションでビルトインのエアコンと浄水器も付けたんですよ、こんな良い物件、他にはありませんよ。だから相場よりも高くないと売りたくないんです」
こう言って相場より高く売りに出すことの理由にする売主さんがいます。確かに当時自分は一番良いと思ってそのマンションを購入したのでしょう。
でも買主さんにとって、そのことがどれだけ購入の意思決定要因に影響を及ぼすかといえば、スナック菓子のおまけ程度しかありません。当然です。価値観が違うのですから。
東京都内でリビングから富士山が見える窓といえば、西向きのマンションです。売主さんは今富士山が見えると言っても、売ってしまえば今後マンションの前に大きなビルが建って富士山が見えなくなることだって関係ありませんが、買主さんは逆に、将来何か建つかが最も重要なことなのです。
管理人さんが良い人なんてことだって、その管理人さんが一生そのマンションを管理するなんてこともありません。
買主さんにとってそれほど意昧のないことでも、一生懸命メリットを強調して高く売ろうとする気持ちはわかりますが、高価格で売りに出すという理由付け
にはあまり影響はないのです。
その物件を一番気に入っているのは実は当の売主なのです。一番気に入ったから買ったのですから。長年住んで愛着があるのもわかります。でも他人はそれほど評価していないことも事実なのです。どうしても自分の物件は、ひいき目に見てしまいます。それは、致し方ないことかもしれません。でも、できるだけ客観的に判断すること、そしてプロに冷静にアドバイスしてもらうことが必要です。
物件の魅力は人それぞれです。駅から近いのが一番良いと思っている人もいますし、駅からの距離よりも、環境を大切にする人もいるのです。長年愛着を持って住んでいたマイホームを手放す時は、娘を嫁がせる気持ちになるなんて言った売主さんもいますし、わかるような気持ちになりますが、親バカな売主になっては、良いことなんて一つもありません。
買主さんは、あなたの物件と引き換えに、今まで貯めてきた頭金とこの先何十年もかかってローンを支払っていくのです。その気持ちもある程度理解しておかないといけないのです。
不動産は、その価格に見合うかどうかなのです。仮に世田谷区で2LDK、65’mのマンションが二つ売りに出ているとしましょう。
築年数、設備や環境も条件が同じだとして相場が4000万円と仮定して、片方は売り出し価格4500万円、もう片方は3500万円とすれば、物件的には同じようなものですが、どちらが良い物件なのかということになれば、3500万円の物件のほうが良い物件となります。
つまり良い物件の判断とは、まず価格ありきなのです。よって買主さんの判断とは、価格の中で判断するのです。売主さんがいくら設備やメリットを強調しても、価格設定が違えばムダなことなのです。
わかりやすいたとえで言えば、他人の恋愛をみているようです。他人の恋愛自慢話を聞いていると「あの人は性格も良くてお金持ちで素敵で……」なんて言われても、あなたは「だから何?」つて思うはずです。その人には一番かもしれませんが、他人にとっては、別に一番ではないってことなのです。